隊員&OB・OGインタビュー

地域で頼られる存在として、地域経済を回す仕組みを作りたい。

みなかみ町 西坂文秀さん OB(2017年4月~2020年3月)

 

Q:隊員時代の3年間の活動について教えてください。

A:最初に手がけたのは藁アートです。
元々、愛媛県今治市で経験したことでした。瀬戸内国際芸術祭での藁アートを見て、山奥の寂れた小さな温泉地の棚田にそれを並べてみたら、メディアにも取り上げられて、どんどん人が来るようになったんです。そうすると、あきらめていた地域の人たちも頑張り出して、いいサイクルになった経験がありました。
みなかみ町も同じ環境だから、やってみようと。

「わらアートJAPAN」というNPOに声を掛け、まず1体、牛の制作を依頼しました。自分たちでもやってみようと、今治で作ったときの設計図を元に小さい作品を作り始めたら、地元の人たちも参加してくれるようになって、大きなイノシシも作りました。そんなふうに、子どもたちにも藁を編んでもらって、地域の人たちと作ったのが始まりです。

藁アートは都内のさまざまなイベントで飾られていたので、その材料を提供する仕組みも作りました。農家の人に藁を編んでもらって1本600円で買い取り、それを「わらアートJAPAN」に売り、展示が終わった作品をいただくという仕組みです。高額な制作費がかかるものを無料でいただいて展示します。ただ、作品は毎年葺き替えなければならないので、その費用を捻出するために、冬場はホテルなどに貸し出すことにしました。その収入で農家さんに葺き替え用の藁を編んでもらって、地域の中で経済を回して継続させる仕組みになっています。

Q:地産地消にも取り組んでおられると聞きましたが。

A:バナナやパイナップルの販売で知られる株式会社ドールが「ドールランドみなかみ」として運営している施設があったのですが、地産地消という流れで総合的に全部やりたいと町に相談して、ドールの撤退後に「モギトーレ」という名で新しく作り変えました。
これも今治で、農園を持つ直売所にカフェやレストラン、クッキングスタジオを併設し、地産地消で運営したところ、日本を代表する施設に成長させた経験が元です。

昨年はクラウドファンディングで約300万円集めてツリーハウスを作り、カフェも併設。自前の農園で穫れたフルーツを使ったケーキを提供しています。その季節に、そこでしか食べられないスイーツということで売り出したところ、ドールの時より売り上げが伸びました。ケーキ作りもプロに頼るのではなく、従業員が作れるように指導しています。

Q:道の駅の施設も、以前とはずいぶん変わりましたね。

A:事務所は2階から1階に下ろして、事務社員も現場を見られるように、現場が忙しければ手伝いができるようにしました。
また、小さな施設が点在して、それぞれに体験や物販を行っていたのを、体験ゾーン、物販ゾーン、飲食ゾーンと3つにゾーン分けしてまとめました。効率もよくなり、お客様にもわかりやすくなりました。
そんなふうに隊員としての3年間は、人が来てくれる仕組みを提案しながら仲間を作っていきました。地域の人たちも人が来るようになると楽しいから、藁アートの制作を手伝ってくれるなど、次々につながりができました。全く縁もゆかりもない場所で、ゼロ以下からのスタートだったけれど、密度の濃い仲間ができたことは、すごくいい経験だったと思います。

Q:任期終了後には、会社組織として立ち上げられたのですね。

A:実は、一般財団法人としての公益財産を使い果たして、このままでは継続ができないことになり、会社組織にしたのは苦渋の決断でした。
地域の人たちに出資をお願いしたところ、ほぼ全戸出資してくださり、出資予定額を上回る資金が集まりました。それを資本金として、2020年4月1日、道の駅たくみの里、日帰り温泉の遊神館、モギトーレの3つの施設を運営する会社として「株式会社たくみの里」を立ち上げました。
ただ、4月に会社を設立したものの、新型コロナウィルス感染症の緊急事態宣言が発令されて営業自粛になった上に、新会社なので持続化給付金も受けられないという状況でした。
できることは事業縮小しかありませんでした。地域の皆さんに資金を出してもらって設立したのに、ここであきらめるわけにはいきませんから。

この危機の中で、少数精鋭となった従業員が一丸となってくれました。飲食事業も温泉も営業できないなら、農園で会社を守ろうということで、みんなが働いてくれました。みんなで手を入れて、品質の良い果物がたくさん穫れました。
6月に県をまたぐ移動が解除された途端、人がどっと押し寄せて、7月には従業員は半数になったのに、売り上げは前年度の120%にまでなったんですよ。

綱渡りでしたが、コロナ禍は仕事のやり方を一から見直すいい機会になったし、みんなが本当にやる気を出してくれて、悪いことばかりじゃなかったなと、今は思っています。

Q:社長としての西坂さんのモットーは?

A:“助け、助けられ、支え合う”こと。当社の立ち位置を“助け、助けられ、支え合う”という仕組みの中に位置づけ、地域で頼られる存在として地域経済を回す仕組みを作ることが、当社の生命線であり、私のモットーです。
例えば、自粛期間中に、地域の飲食店のメニューを全部一つにまとめて、デリバリーの注文取りから配達まで、一括で行う取り組みを行いました。
この取り組みは、もともとは、学校の体験旅行など向けとして企画したものです。以前から観光バスがたくさん来ているけれど、ここでは食事しないことを残念に思っていたんです。なぜかというと、大人数の団体に対応できる店がなかった。そこで、この地域の飲食店全体でメニューを一つにして請け負うことを考えました。各店舗のメニューの中から一括で注文を受けます。外に座って食べてもいいし、事務所を1階に下ろしたので空いている2階を食事場所として使ってもらってもいいという形で進めました。

Q:今後、会社を運営していく上で、夢はありますか?

A:3つの施設それぞれに、社員に語っている夢があります。
まず、遊神館。施設の前に川が流れていて、降りられるように階段も付けられているのに、荒れたままです。そこで、地域の人たちと草刈りしたりして、子どもが安全に遊べるように川をきれいにしようと。それから、もともと直売所だった雰囲気のある建物を宿泊施設にしたい。入浴と食事は遊神館でしてもらい、1泊2,000円くらいの格安で泊まれるように。周辺の貸し農園を拡大して、この一帯を宿泊して農業体験したり、川遊びやバーベキューができたりするような施設にしていくことが一つ目の夢です。

次にモギトーレ。当社の周りの果樹園の人たちから、高齢化で手伝ってほしいという声が出ているんです。そこで、いっそ全部借り上げて見渡すかぎりのフルーツランドにしたい。国道から駐車場まで上がってくる間、果樹園しか見えないようなフルーツランド構想です。年間通してすき間なくフルーツ狩りができたり、旬の加工品やケーキが作れたり、バーベキューなどもできるようにと、少しずつ進めています。

それから、たくみの里一帯を、里山ディズニーランドにしたいという夢もあります。耕作放棄地をなくし、クローバー畑やレンゲ畑、菜の花畑にしたりして、荒れているところはなくします。そこに、今、馬が2頭いるのですが、ヤギや牛がいたり、ウサギを抱っこできたり、ニワトリが卵を産んでいたりするような里山動物園を作ります。広い畑で、何百メートルもエンドラインのないサッカーができるようにしたり……。
とことん田舎らしい理想的な里山をつくりたいと思っています。

いつもみんなに言っているんですよ、夢は語らないと実現しませんからね。

Q:地域おこし協力隊を目指そうとしている後輩たちにメッセージを。

A:皆さん夢を持って地域に入っていくことと思いますが、自分がやりたいことがどれだけ実現できるかは、やりたくないことがどれだけできるかにかかっています。つまり、楽しみには必ず苦しみがついてくる。その苦しみを乗り越えなければ、夢は叶えられないということです。

それから、地域おこし協力隊として、自分のことだけじゃなく、地域にどれだけ恩返しができるかも考えながら活動してほしいと思います。

(取材日:2020/10/8)