出会った人とのつながりで、こだわりのピザ店を開業。
Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:出身は神奈川県相模原市です。以前は都内の企業で食品の検査業務に従事していましたが、残業が多く通勤時間も長くて体調を崩してしまったんです。転職を考える中で、地域おこし協力隊の制度を知って、地方で働くのもいいかもしれないと思うようになりました。そんなとき、群馬県のアンテナショップ「ぐんまちゃん家」で開催された説明会に参加したのがきっかけです。
下仁田町を選んだ理由としては、都心からのアクセスが良いことや、雪が少なく気候が比較的穏やかなことですね。それまで下仁田町を訪れたことはなかったのですが、見学に来て街を歩いてみて、住環境の良さや町の人の親切なところに引かれ、ここで頑張ってみようと決意しました。
Q:隊員だったときの活動内容を教えてください。
A:隊員時代は役場の福祉課に所属して、お年寄りの見守り活動を行いました。高齢者のお宅を一軒一軒個別に訪問してお話ししながら困りごとはないかなどを聞き取ったり、地域の高齢者を集めて交流会を催したりといった活動を行っていました。お話を聞く中で何か問題が起こりそうだと感じたら、役場に報告して情報をつなぐ役割です。
「見守り」という活動でしたが、この地域の高齢者は皆さんお元気で親切な方が多く、逆に僕の方が見守られ、助けられている感じでしたね(笑)。
住み始めて生活用具をそろえるときから地域の人たちに声をかけていただき、お世話になりました。生活面でも分からないことは親切に教えてくださり、おすそ分けなどをいただくことも多かったです。
Q:任期終了後にピザ店を始めようと思ったのはなぜですか。
A:ピザ店を始めようというのは任期中から考えていました。
きっかけは、地域の交流会を催したとき、僕が学生時代にピザ店で働いた経験があって、生地からピザを作れると話したら、ピザ窯を持っている知り合いがいるので作ってくれないかと頼まれたことです。やってみたらうまく作れて、みなさんにとても喜んでいただきました。
ただ、開業しても需要がなければ意味がないので、訪問活動の中で高齢者のみなさんにピザを食べるかどうか聞いてみたところ「よく食べるよ」「わざわざ軽井沢や埼玉まで食べに行くこともあるよ」と、皆さんからの反応が良かったので、開業を目指すことにしました。
Q:開業に至るまではどのように進めたのですか。
A:開業資金には、県と下仁田町の補助金の両方を使いました。地元信用金庫の創業塾に参加して経営計画を練り上げ、補助金申請に必要な計画書作りも指導していただけたので、問題なく申請できました。
建物は、2019年に閉店したこんにゃく料理店の店舗跡をお借りしています。よく行く喫茶店の店主が所有者と知り合いという関係で、紹介していただきました。建物の改修費には、町の地域おこし協力隊の起業支援金を使うことができました。
ピザ窯は、役場の職員の方がピザ窯メーカーのご親戚という関係から紹介していただき、県の創業補助金を使って購入しました。
熱源にはまきを使っているのですが、それも隊員時代から加入している消防団の人からいただいています。
店の看板やショップカード、名刺などは、同期の協力隊員で今はOGとしてデザインの仕事をしている川場村の丸山さんにお願いしました。
開業に至るまで、人のつながりで実現できたという感じですね。
Q:お店のこだわりや、今後の目標を教えてください。
A:店名の「オーダーメイド」は、高齢者にも分かりやすく覚えやすい名前ということと、「こんなピザ食べたい」という要望に応えられるようにしたいと思って名付けました。実際に具材を持ってきて「これで作って」と言われたこともありましたよ。
他店より生地の薄いピザを意識して作っています。できるだけ具材そのもののおいしさを味わってほしいと味付けは薄味です。トマトソースやバジルなどは地元のものをなるべく使うようにして、現役の協力隊員やOB隊員が作った野菜も使っています。
まき窯で焼くのもこだわりです。ほんのりと木の香りが付いて味わいに深みが増しますから。まきは火加減の調節に技術と知識と経験が必要なので、多くのピザ店はガス窯を使っています。それをあえてまき窯にして差別化を図りました。
できるだけ他店ではまねできないピザを作って、遠くからでもわざわざ足を運んでいただけるような店になればと思っています。
オープンして半年ですが、店内はかなりゆったりしているので、今後はピザを食べに来店するお客様だけじゃなく、気軽に立ち寄ってコーヒーを飲みながらくつろげるような店を目指したいですね。提供しているのは「石蔵熟成珈琲」です。建物の改修をお願いした人からの紹介で、石蔵の中でジャズを流して熟成したコーヒー豆を使っているんですよ。試飲したらすごくおいしくて、これもこだわりです。
知り合いが作っている陶器や、みどり市の協力隊の手づくり作品なども、店内で展示販売しています。また、すぐ近くに移住した人が開いているカレー屋があって、その店にナンの生地を卸すことも始めました。
知り合いから知り合いへと、人のつながりがどんどん広がっていくのも、小さな町ならではの良さだと感じています。
Q:地域おこし協力隊を目指したいという人にメッセージをお願いします。
A:僕は知り合いが一人もいないところに来て、特別社交的な性格ではありませんでしたが、たくさんの人に助けられ、人のつながりで店舗を開業するまでに至りました。
どの町にも協力的な人、困ったときに助けてくれる人はいるので、自分から声を発していけば必ず道は開けると思います。
(取材日:2021/9/16)