農と食で地域を活性化させたい
Q:片品村の地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:大学を卒業後、地元の飲食店に勤めたのちに自然学校を委託運営する北海道のNPOに転職しました。2年経って残念なことにそのNPOが解散することになってしまい、転職活動をする中で、全国で地域づくりを行う団体が集まるイベントを紹介していただき、そこで片品村が協力隊募集のブースを出していたことがきっかけです。「協力隊員になろう」と思って自治体を比較検討して決めたわけではなかったです。
これまでの経験から、地域おこしの活動をやっていく上で本気で地域と関わるにはそこに根差していないと積み重なっていかないなって感覚が生まれていたので協力隊という選択につながりました。
私、元々山が好きで。水がおいしいところがいいなと思ったので、尾瀬の水源というイメージにも惹かれましたね。内容もこれまでの経験を活かしていける可能性がありそうだなと思って決めました。
Q:隊員だった時の活動内容と、当時の嬉しかったことや大変だったことを教えてください。
A:1年目はむらづくり観光課のお手伝いや、声をかけてもらった村の行事に参加しました。神輿、夏祭り、八木節、運動会、そういう行事を通して村の人達とのつながりができていきました。地域の方がやっているイベントの手伝いをきっかけに村の中を知って人とつながることができました。
2年目から、協力隊員を各組織に所属させるという方向になって。私は、片品村地域未来振興協議会というところに出向になって、団体のやろうとしている方向性に合わせて、遊休農地を使ったハーブガーデンの管理とイベントの主催をしました。また、片品村で空き家&仕事バンクのウェブサイトを作成していたので、仕事バンクを担当して、村の人達をインタビューして記事にまとめていきました。
3年目からは、協議会がNPOになったので立ち上げを一緒にやって、廃校になった旧武尊根小学校を活用して武尊根桜まつりというイベントや、高崎経済大学の学生とコラボ企画を開催させていただきました。
地域おこし協力隊の活動は3年目で終了するのが分かっていたので、同じことを3年やっても先がないなと思っていました。1年目の冬ぐらいに、この3年間の先をどうしようかとても悩んでいました。そこで、「北毛茶会」という北毛地域の方々が月一で開いている「北毛茶会」というお茶会にも参加させてもらって、ゆるくお茶をしながら話を聞いてもらって。そんな中でつながりをつくるというのがとても大切だなと感じました。北毛茶会のおかげで片品だけじゃなくて、北毛の地域で、農家さんや事業をやっている方など、様々な方と交流させてもらい、活動にも意識にも広がりが生まれました。
大変だったのは、地域おこし協力隊で何をやっていくべきなのかが、自分の中でもはっきり確立していなかったことですね。片品村としても第一期だったので、協力隊の目的と活動にあいまいな部分があって。3年間何をどうやって、活動した先に何があるのかっていうのを考えるのが課題でした。協力隊の制度を使うと移住に対するハードルは低くて、住むところを用意してもらって3年間はお給料をもらえるので、飛び込みやすくはなってるんです。でも3年終わった後に「定住する」という大きめのハードルがあって。他の協力隊員の話を聞いていても、3年間ちゃんとステップアップしていけるかが難しい。やりたいことと地域側のマッチングがうまくいけば就職という道になると思うんですけど、それがない場合の方が多くて。協力隊に入る人は、何かしら形にしたいと思っている人が多いので、最初から起業をするための3年間だって考えた方がいいと思いました。1年目は地域性やつながりをつくり、2年目から事業計画を組み立てて実施しはじめて、3年目がテスト期間。それが終わったときには自走できているという形をコーディネートできれば定住者を増やしていけるのかなって。
Q:現在の活動(事業)内容と始めたきっかけを教えてください。
A:私は2年目くらいから、「協力隊が終わった後も住み続けたいな」という気持ちが強くなりました。片品村や利根沼田の人達とつながりができていったことで、これからも一緒にいたいなって思ったんですよね。じゃあ協力隊を終えてどうするかって考えたときに、北毛茶会の方から「地域おこしの活動を続けていきたいんだったら、起業という選択肢もあるんじゃない?」と言われて。それで3年目は協力隊と並行して、沼田市が主催しているぬまた起業塾に通わせてもらいました。1年間で事業計画から起業までやったのでなかなかハードでした。
片品村に住んでみて感じたのは、暮らしの居心地のよさと、口にするものも心地いいものが多いってことだったんです。協力隊の活動で、農家さんをまわったときに、どのお宅を訪問しても「お茶でも飲んでいきなよ」ってお茶を出してもらって、そうすると漬け物が出てきて、うどんやおはぎが出てきて(笑)。何もないっていいながらどんどん出てくる。そういう暮らしの中の当たり前の味がすごい魅力的で、これが地域の味だなって。自分の友達や家族が来たときに食べさせたいのってこの味だなって。でもいわゆる家庭料理だから、地域の味を食べさせるところってなくて、そういう場所があってもいいかなって。
「北毛茶屋」の事業については、もともとは移動販売車で、地域の魅力の“食”をいっぱい積んでいろんなところに発信していきたいと考えていたんです。でもレトルトではない商品を出すためには、営業許可の取れているキッチンがないとできないという壁にぶつかって。ちょうど空き家バンクに元食堂だったこの場所が登録されていて、役場の方を介して大家さんを紹介してもらい、とんとん拍子に話が進んでいきました。2018年4月に北毛茶屋をオープンさせて、お店の運営をしながら、催事がある時は移動販売車でイベントなどに出展しています。
Q:片品村に暮らしてみた感想を教えてください。
A:片品村の中でもこのあたりは星が綺麗に見えるんですよ。この間特に感動的な日があって。5等星まで全部見えるような、プラネタリウムみたいな感じ。流れ星も5回見ました。春は芽吹き、夏は星、秋は紅葉で日々山の色が変わるし、冬は雪がきれい。毎日風景が違うのが楽しいです。
Q:今の事業で心がけていることや目標があれば教えてください。
A:北毛茶屋は「農と食で地域を活性化させるお店」です。なので、「農と食で地域を活性化させたい」という仲間を増やしていくことが今の目標です。1人でできることには限りがあるけれど、人が増えれば変わっていく。農家さんが抱えている、高齢化とか販路の少なさとか、いろんな課題に関わりながら新しい価値を提案していけるような人が増えたらいいな。片品村を自分と同じ世代の女性が暮らしやすい地域にして女性を起爆剤に地域が活性化していく取り組みをしていきたいと考えています。
そのために、今年7月から「移住定住コーディネーター」としても活動を始めました。「片品村地域おこし研究会」という会を立ち上げて、地域おこしの勉強会やワークショップ等を開催しています。移住希望者のサポートや情報発信、地域の皆様と協働して片品村が暮らしやすい村になるよう、村全体の環境づくりにも取り組み始めています。
これから「農」と「食」の地域おこしに関心のある女性「村ガール」を呼び込むための環境整備として農古民家を「村ガール専用ゲストハウス~SEI~」としてリノベーションして整備する予定です。今年度中にクラウドファンディングも開始しますのでどうぞよろしくお願いします。