隊員&OB・OGインタビュー

本との出会いが、心に広がる水紋になるように。

本との出会いが、心に広がる水紋になるように。 小澤 亮太さん OB(2024年6月~2025年6月)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:2024年2月、体調を崩したことをきっかけに東京の会社を辞め、実家のある前橋へ戻ってきました。次の仕事は決めていませんでしたが、出版取次会社で働いていた経験や本が好きだったことから、「いつか本屋をやってみたい」という思いが心のどこかにありました。ちょうど前橋のまちなかで白井屋ホテルをはじめ、新しいカルチャーが生まれていることを知っていたため、そんな環境なら自分にも何かできるかもしれないと思い、軽い気持ちで市役所にメールを送ったのがすべての始まりでした。
前橋は私が生まれ育った場所ですが、大学進学を機に東京へ移り、そのまま東京で就職。お盆や正月には帰省していたものの、前橋のまちなかエリアとの接点はほとんどありませんでした。そんな中送ったメールがきっかけで、前橋市にぎわい商業課の方にまちなかを案内してもらえることになりました。新しくできたお店や整備されたエリアを見て回る中で、いきなり本屋を開くのは難しいかもしれないという話になり、そこで初めて地域おこし協力隊という制度を知りました。ちょうど前橋市にぎわい課の協力隊募集が始まるタイミングだったこともあり、2024年6月に応募し、採用されました。

 

Q:隊員だった時の活動内容を教えてください。

A:委嘱先である前橋まちなかエージェンシー(MMA)のスタッフとして活動しました。主な業務は、フリーペーパー「前橋まちなか新聞」の取材・原稿執筆や、MMA主催のイベントの運営などです。MMAはまちなかのハブ的な存在でもあり、自然と地域の方々とのつながりが増えていきました。前橋まちなか新聞の取材では店主の方々と関係を築くことができ、発行後に新聞を配りに行くたびに会話が弾みました。また、私は「本屋をやりたい人」として知られるようになっていたため、地域の方にも自然と顔を覚えてもらえました。
印象に残っている出来事の一つが、2024年10月に開催された「前橋BOOK FES 2024」です。ブックフェスは、来場者が本を持ち寄り、無料で交換しながら交流するイベントで、私は事務局スタッフとして準備から当日の運営まで携わりました。2日間で7万人を超える来場者があり、大盛況でした。
前職では出版取次会社の書店営業を担当。多くの本屋が閉店していく現実を目の当たりにしてきましたから、本屋が厳しいことはよく分かっていました。しかし、ブックフェスでの熱気や反響を目にして、「みんな本に興味がある。ただ本に触れる機会が減っているだけで、根本的には本を読みたいと思っている」ことを実感しました。「本屋をやりたい」という気持ちはさらに強くなりました。

 

Q:現在のお仕事を教えてください。

A:2025年7月6日、前橋市の中央通りに本屋「水紋」をオープンしました。ビルのオーナーから「リノベーションした建物の1階が空いているから、本屋をやらないか」と声をかけてもらったのは、地域おこし協力隊になって2~3か月後のことです。突然舞い込んだチャンスに最初は戸惑いましたが、協力隊としての活動と並行して開店準備を進め、1年の任期が終わる頃にはオープンの見通しが立ったため、協力隊を卒業しました。オープン当日は地域の方々が大勢お祝いに来てくださり、1年間の協力隊活動の大きさを改めて実感しました。
現在の私の一日は、朝の清掃と本の整頓から始まります。その後は接客をしながら、発注する本を考えたり、メールの返答をしたり、イベントの企画を進めたりしています。

 

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Q:「水紋」はどんな本屋さんですか?

A:本屋をやろうと決めたとき、まず店の名前を考えました。私は、整備された広瀬川の芝生の上で本を読むのが好きなのですが、川を眺めていると、木の葉が落ちた瞬間に水紋が広がっていきます。その広がりと、本を読むことで心が動いていく感覚が似ていると感じ、「水紋」という名前を選びました。
水紋に来ていただいたお客様には、私のキュレーションが効いた棚をゆっくり30分ほど眺めて、どんな本が並んでいるのかを楽しんでいただきたいと思っています。本は、思っている以上に世の中にたくさんあるということを感じてもらえたらうれしいです。選書では、お客様が手に取ってくれるかどうかを重視しつつ、幅広いラインナップのバランスを意識し、日常的に立ち寄れる本屋を目指しています。
また、水紋では本の販売に加え、本に関連したイベントの開催も柱としています。その一つが「読書会」です。読書会というと、1冊の本を読んで感想を語り合う形式が一般的ですが、水紋の読書会では、30分間ただひたすら自分の好きな本を読む時間にしています。家では仕事や家事、体調などの理由で、なかなか読書に集中できない人も多いと思います。だからこそ、「本を読むための環境」を提供し、自然と本を読む時間をもってもらえるようにしています。そのほかにも、取り扱っている本の著者を招いたトークイベントや怪談イベントなど、本と関わりあるものであれば幅広く積極的に取り入れています。

 

 

Q:これからの目標を教えてください。

A:よく夢がないと言われるのですが、これからの5年間は現状維持をしながら生きていきたいと考えています。前橋のまちなかでは今後再開発が本格化するため、人の流れが一時的に減るだろうと思っています。その間はイベントを開催したり、売上を確保したりしながら、とにかく再開発が終わるまで踏ん張ることが大きな目標です。
また、本屋がない自治体にアプローチし、市町村のスペースを間借りして本を置かせてもらえないかと考えています。

 

 

Q:これから隊員を目指そうと思っている人に向けて、アドバイスをお願いします。

A:ある程度明確な目標を持っていたほうが良いと思います。私の場合は「本屋をやりたい」というはっきりした目標がありましたが、もし実現できなければ就職を考えなければなりませんでした。協力隊の3年間で何かを成し遂げたいというビジョンを持っておくと、たとえ思い通りにいかなくても「こうしたい」という軸があるのと、なんとなく過ごすのとでは全く違うような気がします。「こういうことをやってみたい」という思いを胸に、チャレンジしてほしいと思います。

 

(取材日:2025/11/12)