人と木をつなぐ「ひととき」の挑戦。

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:以前は家族で高崎市に住んでいました。私は自衛隊の音楽隊に所属し、妻は東京にあるフランスの楽器メーカーに勤務しており、新幹線で通勤していました。夫婦ともにフルタイム勤務だったため、長女・長男の子育てと仕事の両立は大変でした。
38~39歳頃から、「40歳までにライフスタイルを大きく変えたい」と考えるようになり、転職と移住を意識し始めました。妻の仕事のつながりで、ドイツの田舎町に移住する計画が進んでいましたが、コロナ禍の影響で白紙に。それでも移住して生活を変えたいという思いは変わらず、移住先を探している中で、みなかみ町で移住支援を行っている北山さんに、自分から連絡を取りました。
北山さんは、みなかみ町の藤原地区でNPO法人奥利根水源地域ネットワークを立ち上げ、自伐型林業に取り組んでいる方で、林業や地域のことをたくさん教えていただきました。そこで、厚生労働省が主催する林業就業支援講習が群馬県で実施されることを知り、2週間の講習に参加しました。森での実地講習のほか、チェーンソーや刈払機などの資格が取得できるコースで、実際に機械を扱ってみて、「自分にもできるかもしれない」と感じました。もともと登山やキャンプが好きで、自衛隊でも体を使う訓練をしていたこともあり、山で働くことへの抵抗はありませんでした。
講習を終えて1~2か月後、北山さんから「みなかみ町で自伐型林業を推進する地域おこし協力隊の募集が始まる」と知らせを受けました。移住を決断するまでに2か月半しかなく、非常に慌ただしかったのですが、みなかみ町にはすでに好印象があり、妻も上毛高原駅から新幹線通勤が可能だったため、思い切って応募。結果として採用され、移住しました。
Q:隊員だった時の活動内容を教えてください。
A:協力隊としての4年間(コロナ禍による特例措置で1年延長)は、NPO法人奥利根水源地域ネットワークのスタッフとして活動しました。主な仕事は藤原地域での自伐型林業で、間伐を行い、伐採した木は薪にして販売したり、みなかみ町が協定を結んでいる岐阜の家具メーカーへ広葉樹材を出荷したりしていました。
協力隊になった1年目から、任期終了後のことを考えていました。森で木を切り、薪を売るだけでは生計を立てるのは難しいと感じていたためです。みなかみ町に移住する少し前に「特殊伐採」という仕事があることを知りました。建物など周囲に障害物がある場合に、通常の伐採ができない場所で木を切るための技術です。ロープで木に登り、チェーンソーで枝を切ってロープで吊り下ろしたり、木そのものを分割しながら伐採したりします。
2年目には、ツリークライミングやチェーンソー、フルハーネスの特別教育や、ロープ高所作業などの講習を受け、特殊伐採の技術習得を進めました。みなかみ町にはこの技術を持つ人がおらず、私自身、自衛隊時代にヘリからロープで降下する訓練などの経験があったこともあり、挑戦しました。
Q:現在のお仕事を教えてください。
A:協力隊の任期を終えた2025年4月から、「合同会社ひととき」を立ち上げました。これまでお世話になってきた北山さんのNPOの手伝いを続けながら、地域の方や事業者さんから依頼される伐採や特殊伐採の仕事を受けています。さらに、一般社団法人みなかみ町体験旅行が行っている民泊事業に協力し、中学生を受け入れています。薪割り体験をしてもらったり、焚火でダッチオーブンのカレーづくりをしたり、里山ならではの体験を楽しんでもらっています。
Q:これからの目標を教えてください。

A:今後は特殊伐採の技術をしっかり磨き、「どんな木でも対応できます」と胸を張って言えるようになりたいと考えています。現在はまだ、「この木は自分には難しいかもしれない…」と悩む案件もあります。とくに枯れ木の場合、内部がどの程度傷んでいるのか判断が難しいこともあります。伐採の技術は本数よりも、どれだけいろんな状況を経験してきたかが物を言う世界です。これからも場数を踏み、判断力も技術も経験も積み重ねていきたいと思っています。
社名の「ひととき」には、「人と木」をつなげるような仕事をしたいという思いを込めました。また、「ひと時」の意味も含めたかったため、ひらがなの「ひととき」としています。ゆくゆくは地域の森に手を入れ、子どもたちと森をつなぐ活動にも取り組みたいと考えています。地域の方々との関係づくりを進めたうえで、ほとんど利用されていない地域の共有林を間伐し、そこから生まれた木を地域内で消費できる仕組みをつくることが目標です。食べ物の地産地消と同じように、木の地産地消が実現できれば理想的だと考えています。
Q:みなかみ町での暮らしはどうですか。
A:みなかみ町に移住して4年半になりますが、移住して本当に良かったとしみじみ感じています。次女が生まれ、購入した一軒家で家族5人暮らしが始まりました。憧れだった薪ストーブのある生活を満喫しており、家族で過ごす時間が以前と比べて格段に増えました。
また、みなかみ町は移住者が多く、よそ者扱いをされることがまったくありません。どこへ行っても「どこから来たの?」と温かく声をかけてもらい、伐採の現場でも見知らぬ方が差し入れをしてくださるなど、人の温かさを強く感じています。3人の子どもたちもみなかみ町の環境にすっかり馴染んでいます。
Q:これから隊員を目指そうと思っている人に向けて、アドバイスをお願いします。
A:協力隊の仕組みは自治体によって大きく異なり、役場で働く人もいれば、僕のように受け入れ団体で活動する場合もあります。僕は資格取得などの活動を自由に進めることができましたが、誰もが同じ環境で活動できるわけではありません。
3年間という任期は、本当にあっという間です。特に家族がいると、その短さをより強く感じます。もし「この地域は自分に合っている」と思えたなら、2年目くらいからは、任期終了後の暮らしを見据えて準備を始めておくと良いと思います。また、受け入れる側にも「任期が終わってからも地域で暮らしていけるように」という視点でサポートをする意識があると、ミスマッチも少なくなるのではないかと感じています。
(取材日:2025/11/6)