隊員&OB・OGインタビュー

ここを訪れた人たちが、それぞれありのままの輝きであるように。

藤岡市 星野潤さん OB(2019年3月~2022年4月)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:前橋市出身で、東京の大学に進学し、在学中に文化人類学や民俗学に興味を持ちました。26歳の時いったん仕事を辞めてオーストラリアに渡り、アボリジニーの人たちの暮らしを体験したり、現地のシェアハウスで生活したりと、30代前半まで、いわゆる“旅人”として海外や他県でさまざまな経験を積みました。それが今につながっていると思います。
実は、今やっている味噌や糀づくりは、協力隊員になる前から取り組んでいました。

2011年の東日本大震災の時、都内のシェアハウスを兼ねた飲食店で働いていたのですが、震災後に自分で食べ物を作ることの大切さを実感しました。味噌は電気を使わなくても作れるので自給に最適。そこで、味噌づくりのワークショップを開いたのが最初です。材料は、群馬の知り合いの農家さんから仕入れ、そのうち糀も自分で作りたいと京都の酒蔵でアルバイトしながら学びました。講師を務めたり、ワークショップを開いたり、徐々にニーズも高まり、都内で数年続けましたが、仕入れなどで行き来しているうちに群馬に帰りたいという気持ちが強まってきたんです。
そんな頃、アーティスト・イン・レジデンスで鬼石地区に遊びに来て、芸術活動をしていた前任の協力隊員に出会い、「今年度で任期が終わるので、次年度新たに協力隊の募集がある」と教えてもらったのがきっかけです。


Q:隊員だったときの活動内容を教えてください。

A:1年目はにぎわい観光課に配属されて、夏祭りなどイベントの手伝いをメインに、公民館や保育園でのワークショップなど、自分で設定したミッションにも取り組むことができました。
最初は市役所で用意された寮に住んでいましたが、1年目の終わり頃、この家に出会いました。リノベーション業者が空き物件の下見に行くときに同行させていただいたんです。結局、業者との売買は成立しませんでしたが、僕はすごく気に入りました。典型的な養蚕農家ですが、この造りにしては比較的新しく、ここを拠点にいろいろできそうだと。大家さんと連絡を取り合いながら、半年後には思い切って購入しました。

2年目にはコロナ禍でイベントが全くなくなり、アーティスト・イン・レジデンスも中止になったので、ここに4人の日本人アーティストを招き、2週間の滞在制作を試みました。壁のデコレーションは、その時アーティストの子どもたちと一緒に制作したものです。
3年目には、鬼石振興課に異動して主に移住定住促進活動を行いました。


Q:隊員時代に経験した、うれしかったことや大変だったことを教えてください。

A:市役所の職員という立場を通して地域のさまざまな方と知り合うことができたのは、協力隊員になってよかったことの一つです。
例えば、入会した団体で「音楽フェスをやりたい」という話になり、企画を任せてもらえることになって「鬼ロック」というフェスを立ち上げました。趣味でやっていたことが仕事になったのは、うれしかったですね。その時一緒に活動した人たちとのつながりは、今も続いています。
大変だったのは、3年目に鬼石振興課に異動し、全く違う業務に変わったとき。「公務員あるある」だと思いますが、最初は戸惑いました。でも逆に、行政の人の考え方や感覚がわかり、任期終了後に一般市民に戻ったときも、行政側との付き合い方や間合いがわかるようになりました。


Q:現在の事業内容や、これからやりたいことを教えてください。

A:「暮らす宿・ほしのいえ」と名前付けたこの家を、自宅も兼ねた民泊施設として運営しています。四季折々の里山の風景の中で、なるべくサスティナブルな暮らしを実践して、訪れた人とも共有していきたい。宿名は「星野」という名前にも由来しますが、「ここを訪れる人たちが、それぞれありのままの輝きであるように」という思いを込めました。
ここで、味噌づくり、糀づくり、餅つき、手仕事ワークショップ、アーティスト仲間とのイベントなども行っています。
僕は塩づくりが好きで毎年各地を訪れていますが、ここで塩づくりにも挑戦しました。近くの八塩温泉は塩分濃度が高いので、その源泉も使ってみたんですよ。塩づくりはとにかく時間がかかりますが、たき火を囲んで話をしたり、何か焼いたり・・・、そういうスローな暮らしを来てくれた人たちと共有したいと思っています。

太陽光である程度電力をまかなえるように小電力発電も始めました。また、僕も犬を飼っているのですが、大型犬連れだと泊まれるところがなかなかないという声も聞くので、庭や前の畑をドッグランにしたいとも思っています。
コロナ禍の影響はありましたが、宿泊の需要も少しずつ戻ってきました。
今、鬼石支所と一緒に、移住を考えている人に泊まってもらって地域を案内する事業も始めたので、そちらも軌道に乗せられればと思っています。


Q:地域おこし協力隊を目指したいという人にアドバイスがあれば。

A:協力隊員がまず悩むのは、地域の人との付き合い方だと思います。知らない場所に来て、手探りで始めなくてはならないので、壁にぶつかることもあるでしょう。
地域の人に受け入れてもらうには、わかりやすい見せ方を一つ作るといいと思います。僕だったら「味噌屋です」というと、だれでもわかる。自分のミッションに対する戦略だけでなく、地域の人との付き合い方の戦略も考えておくとやりやすいですよ。
それと、何かあったときに相談できる人、支えてくれる仲間を作ることが大事ですね。県の研修会などには積極的に参加して、他地域の協力隊員と情報交換したり、悩みを分かち合ったりするといいと思います。僕も協力隊OBとして力になれればと思っているので、ぜひ頼ってほしいです。

(取材日:2022/9/5)


HPリンク:暮らす宿・ほしのいえ