隊員&OB・OGインタビュー

「半分他力」をテーマに、この場所で新たな活動を模索していきたい。

中之条町 西岳 拡貴さん OB(2018年4月~2021年3月)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:きっかけは中之条ビエンナーレです。美術系大学を卒業後、彫刻家として作品を作りながら、高校教師や服飾の仕事にも就いていました。
中之条ビエンナーレには2017年に初参加。作家と町の人との触れ合いを重視することが中之条ビエンナーレの特徴で、作家たちは2週間ぐらい滞在して制作するので、プチ移住のような感じでこの町の雰囲気を感じ取れるんです。開催前年には参加する全作家が2日間かけて全会場を巡るオリエンテーションがあり、そのとき配られた冊子の中に移住に関するチラシが入っていました。

仕事が一段落して環境を変えたいなと思っていたこともあり、町の移住定住コーディネーターの村上久美子さんから、地域おこし協力隊を募集していることを聞き、応募して採用していただきました。


Q:隊員だった時の活動内容を教えてください。

A:観光商工課に所属し、ビエンナーレの事務局の仕事を担いました。同じ業務の協力隊員で役割分担し、僕は作品設置のサポートを主に担当しました。作家とメールでやり取りするのですが、海外の作家も参加するので英語担当の人もいましたね。
2年に一度の芸術祭ですが、間の年には国際交流業務もあります。僕も、タイとフィンランドと中国にそれぞれ1か月くらい滞在して、作品を展示しました。そして、次の年のビエンナーレには、海外の作家たちに中之条に来てもらいます。

今年3月に協力隊の任期が終了した後、テクニカルディレクターという役職をいただいて、2021ビエンナーレにも関わりました。今回はコロナ禍で、前年に行うオリエンテーションも完全リモートに切り替えました。100以上ある会場全てを360度カメラで撮影。通常は作家に現地で寸法を測ってもらったり、雰囲気なども確認してもらったりするところを、全会場の寸法を測ってデータ化し、映像とともにネット上で確認していただいて、質疑応答もリモートで行いました。
なんとか無事にやりとげられて、ほっとしているところです。


Q:現在の活動内容を教えてください。

A:ビエンナーレを担当する隊員は活動が3年間で完結するので、なかなか移住に結び付きません。僕も、終了後の仕事をどうしようかとずっと考えていて、2年目くらいからチョコレート製造に向けて動き出しました。きっかけは、知り合いにチョコレート好きな人がいたこと。その人に広島の「USHIO CHOCOLATL」のチョコを勧められ、食べてみたらびっくりするほどおいしかったんです。クラフトチョコレートという分類の、カカオと砂糖だけで作るチョコレートだと知り、調べてみたら、製造方法も案外簡単だと思いました。それで、すぐにビエンナーレで知り合った篠原君に電話して、一緒にやろうと誘ったら、「ああ、いいよ」と。軽いノリでしたね(笑)。

古物商の篠原夫妻とチョコを勧めてくれた山川さんと4人で「nakanojo kraft project」という名前でスタートしました。
まず、東京の大手クラフトチョコレートメーカーのワークショップに参加して、製造工程など一通りの知識を得ました。
その後、パッケージやチョコレートの形のデザインに取り組みました。シリコンで型を取って、“彫刻家のチョコ”というようなコンセプトです。
工房は篠原君の知り合いから借りて、みんなでリノベーションしました。

チョコレート作りは全員素人ですから、試行錯誤の繰り返し。微妙な温度管理も必要で、その感覚をつかむまで1年くらいかかりましたね。最終的に完成したのはベリーズとホンジュラスのカカオを使った2種類。砂糖も黒糖とキビ糖を使い分けて、カカオ74%と80%で、それぞれ全く違う味に仕上げました。販売は中之条ガーデンズと交流センター「つむじ」の2か所でスタート。今は、草津や高崎・前橋などの店舗でも販売しています。
まだまだ軌道に乗っているとは言えませんが、あまりシャカリキにならないのが僕たちのやり方。ゆったり田舎暮らしを楽しみながら生活している姿を発信していきたいと考えています。

最近は、僕たちの活動が町の中でも知られてきて、町民の皆さんが喜んでくれているのがうれしいです。


Q:この先の目標があれば教えてください。

A:今年、築90年以上の古民家を買って、自力でフルリノベーション中です。そこを拠点にした新しいプロジェクトを、来年1年間かけて考えていきたい。交流センター「つむじ」や、古民家を改修した複合施設「かたや」が近くにあるので、別の面白い要素を加えて、歩いて楽しい通りにできればと考えています。


Q:中之条町で暮らして驚いたことはありますか?

A:町の人たちがビエンナーレにすごく協力的なことに驚きました。
芸術祭って、町の人と運営側や作家との距離が縮まらなかったり、何をしているか分からないまま芸術祭が終了したりで、地元の人が置いてけぼりの状態が各地で起きています。
ところが、中之条では90歳になるおばあちゃんたちまでもが、とても楽しみにしていて、作品の良さはわからなくても作家と仲良くなることがうれしいと思ってもらえるんです。ビエンナーレの作家ですと言うと、駅の電気を全部消すなんて無理難題にも「いいですよ」とすぐに協力してくれる。
それほどアーティストが理解され、受け入れられていることに正直驚いたし、感動しましたね。


Q:地域おこし協力隊を目指したいという人へのメッセージがあれば。

A:僕は、あまり高い志を持ちすぎない方がいいと思っています。どんなに高い理想を持って取り組んでも、地元の人たちが望んでいなければ、うまくいきません。
とりあえず肩の力を抜いて、町の人たちありきでやっていった方がいいと思います。

僕たちのテーマは「半分他力」。町の人たちに半分頼りながら、僕たちにできることは頼ってほしい。頼るし、頼られる、というスタンスで、これからもこの場所でやっていきたいと思っています。

(取材日:2021/12/14)