木を切り、香りをつくり、森を守る。未来の林業のために。
Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:前職はパチンコ・スロットホールの社員でしたが、会社が買収されたことをきっかけに転職を決意しました。妻と出かけた旅行先で、林業従事者がチェーンソーを持って山で木を切る姿を目にする機会があり、とてもかっこいいと感じ、林業に携わる仕事をしたいという思いが強くなりました。最初は「緑の雇用」を利用して林業事業体に勤めることを検討していましたが、林業振興を担当するみどり市地域おこし協力隊の募集を見つけ、応募を決めました。
実は前職時代にみどり市に住んでいたことがあり、東町にも遊びに行ったことがありました。「自然豊かでいいところだね」と妻と話していたこともあり、林業の転職先をみどり市で探していたところ、地域おこし協力隊の募集を見つけたのです。林業従事者への憧れから、林業の世界に飛び込むことを決意したものの、私はこれまでデスクワーク中心の仕事をしていたため、果たして自分に林業の仕事ができるのかと不安もありました。右も左も分からない状態であるならば、協力隊の制度を活用して林業技術を学び、林業従事者になるために3年間チャレンジしてみようと考えました。
Q:活動内容について教えてください。
A:現在、任期3年目の終わりに差し掛かっています。3年目のこの1年は、任期終了後の生活を見据えた準備を進めてきました。今後も個人事業主として伐採業を続けるため、「緑之枝」という屋号の会社を設立し、「森の香。foreal<フォレアル>」というエッセンシャルオイルのブランドを立ち上げました。このように3年目にしてエッセンシャルオイルの製造・販売に至りましたが、決して順調だったわけではありません。
協力隊に着任して10日目、山の現場に初めて行く機会があり、そこで足を踏み外し、4m下へ滑落し、左足を複雑骨折しました。妻をみどり市の新たな住まいに残し、私は2か月の入院生活を送りました。その間、病室で本を読み漁り、林業の現状について勉強する日々が続きました。木材の価格が安いことが問題であることを知り、安いのであれば、高付加価値をつけて、林業に還元する方法はないかと考えていた時に、浮かんだのがエッセンシャルオイルです。退院後しばらくは、山の現場に見学に行きながら、家の庭先で、病室で浮かんだアイデアを実現できるかの実験を始めました。足が回復した後は、親方の指導を受けながら、木を切る練習や重機の操作を覚え、林業に必要な資格も取得しました。
みどり市東町には、花桃街道と呼ばれる花の名所があります。2年目の春、みどり市の協力隊が活動の成果を披露するブースが花桃街道に設けられ、そこでエッセンシャルオイルを販売する機会を得ました。妻の協力を得ながら、作ったエッセンシャルオイルがお客様の手に渡る瞬間を目の当たりにし、手応えを感じました。その経験を踏まえて、エッセンシャルオイルの製造・販売を本格的に進めることにしました。
Q:みどり市での暮らしはどうですか?
A:着任早々、地域の方々の温かさを身に染みて感じました。私が入院している間、みどり市での新生活が始まった妻を地域の方や協力隊の先輩方が訪ねてきてくださり、良くしていただきました。現在住んでいる家も、地域の方が空き家を紹介してくださり、すぐに決まったものです。また、エッセンシャルオイルの製造工房も、地域の方々とのつながりで、わたらせ渓谷鉄道の列車が目の前を走るというロケーションの良い倉庫を借りることができました。地域の方々は、移住者を温かく迎えてくれていることが伝わってきます。
みどり市東町は、スーパーに行くのに車で20分ほどかかります。いろいろな場所が遠く、移動時間が長くなるという不便さはありますが、その不便さがストレスになるかというと、そんなことはありません。ここに来る前に住んでいた新大阪では徒歩1分の距離にスーパーやホームセンターがあり、便利な場所でしたが、便利だからといって、リラックスできたかというとそうでもなかったのです。妻がよく「便利すぎない生活が心地いい」と言うのですが、その言葉通りだと実感しています。
Q:今後は、どのように活動していく予定ですか?
A:林業に携わって3年が経ち、木を切ることが楽しく、これからも木を切りながら生活していきたいというのが本音です。屋号「緑之枝」では、伐採の仕事を請け負い、木を切る仕事を続けていきます。山で得た木材を使ってエッセンシャルオイルを作り、販売するほか、工房で「精油づくり体験ツアー」も実施していきます。また、林業と福祉の連携事業「木の駅プロジェクト」に技術者として携わっていく予定です。このプロジェクトは、林地に残った木や間伐材を買い取り、技術者がチェーンソーで切り運び、福祉の方々が薪割りをし、その薪を販売するという事業です。
山にはたくさんの木がありますが、すべての木が有効活用されるわけではありません。市場価値が低い木は、出荷されずに山に残されたり、バイオマス発電所で燃やされたりしています。私が立ちあげた「森の香。foreal」のエッセンシャルオイルは、そんな市場価値の低い木を使い、山から湧き出る清らかな水で薪火を使って時間をかけて蒸留して作ったものです。私ができることは小さいことかもしれませんが、林業の現状を多くの人に知ってもらい、次の世代の林業従事者を増やしていくことが、私の使命だと考えています。
Q:これから隊員を目指そうと思っている人へアドバイスをお願いします。
A:3年間活動して分かったことは、退任後に自活し定住できるかどうかは、2年目の活動が鍵になるということです。1年目は可能性をいくらでも探していいと思いますが、2年目からは退任後の具体的なことへ向けて、資格取得や会社設立、資金計画など、しっかりと道筋を立てて活動することが重要だと思います。私は2年目の6月に工房を借り、8月に蒸留窯を設置しました。さらに、みどり市特産品創出講座に参加し、商品が完成する見込みで、ブランドのロゴやコンセプトを作成するなど、何事も前倒しで進めるよう心掛けました。2年目にどれだけ具体的な目標に向かって動けるかが大事です。そして、3年目は、退任後に向けての助走期間だと思って活動してほしいと思います。
森の香。foreal
https://www.foreal.jp
(取材日:2024/11/8)