生産者の思いをつなぐ、スローな料理と、記憶に刻まれる料理を届けたい。
Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:群馬県の猟友会の先輩から、前橋市で地域おこし協力隊を募集していることを教えてもらったことがきっかけです。当時、私はフリーランスの料理人として、メニュー開発やイベントで提供する料理の企画、調理、提供、後片付けなどを一人で請け負っていました。イベントの参加者がどんな人たちで、どんな時間を過ごしたいのか、背景などを伺い、それに合わせた料理を作って提供するスタイルで仕事をしていました。ただ、一人でできることには物理的にも能力的にも得手不得手があり、次第に限界を感じるようになっていました。そんな時、前橋市のスローシティ推進に関する活動を行う地域おこし協力隊の募集を知りました。スローシティは、地域の食や農産物、歴史文化・自然環境を大切にし、ゆとりある質の高い生活を推進する取り組みで、前橋市の赤城南麓地域は「スローシティ前橋・赤城」として認定されています。スローシティの考え方はもともとスローフード運動から始まったものであるため、暮らしに欠かせない食の分野でこれまでやってきたことが活かせるのではないかと思い、応募しました。
Q:活動内容について教えてください。
A:今、メインで携わっているのは、前橋の食材を使ったお弁当づくりです。「惣菜マダム」という料理好きな人たちが集まり、お惣菜で、みんなを元気にしようという目的で始まった活動です。お料理好きの市民が集まり、家族のために丹精込めて作る料理を街の皆さんにおすそ分けするというコンセプトで始まり、最終的にはお惣菜屋さんの開業を目指しています。私はそこでプロジェクトリーダーをしています。季節ごとに生産者から食材に関する話を聞き、それを基にメニューを考案。みんなで試食を重ね、最終的に惣菜を詰め込んだ「ジモットベントウ」を限定販売しています。
前橋には本当においしい食材がたくさんあります。外から来た私にとっては、おいしい食材がこんなにも身近にあることがすごいことだと感じますが、地元の人にとっては、それが当たり前のことです。その当たり前が実はすごいことだということを少しでも知ってもらいたいというのが、私の活動の軸になっています。生産者のこだわりや思い、食材が生まれた背景を知った上でいただく料理は、おいしさとともにストーリーも生まれ、印象に残るはずだと思っています。
小さい頃に食べた味は、思い出の味として大人になっても覚えていることがよくあります。私は、自宅で簡単に作れる、家庭料理としての前橋のソウルフードを提案したいと考えていました。さまざまな人に、家庭のソウルフードは何かと聞いているうちに、前橋の清里地区には、地元の人なら誰もが知っている「きよさと焼き」という食べ物があることを知りました。地元の夏祭りでは屋台が出ますし、小学校の調理実習では、地元の食育部会の方々が講師となり、子どもたちがきよさと焼きを作って食べるそうです。そのきよさと焼きにインスピレーションを受けて考案したのが「まえばし焼き」です。味噌を混ぜた生地と甘じょっぱいタレをベースに、豆腐、豚肉、そして、各地域で採れる野菜や家庭にある食材を自由にアレンジして加えることができる料理です。この「まえばし焼き」を細く長く、少しずつ知ってもらえたらいいと思っています。
他にも、スローシティの全国組織「スローなまちづくり全国推進委員会」のホームページの管理運営など、デスクワークも行っています。現在、与えられているミッションは、前橋の新たなお土産や、新しい味の開発です。豚肉を使ったお土産商品のレシピ考案や、バラを使ったシロップの開発にも取り組んでいます。
Q:前橋市での暮らしはどうですか?
A:ちょっと車を走らせると、豊かな自然が広がっているところが、前橋の魅力です。赤城山はお気に入りの場所で、こんなに素晴らしい景色と空気があることは、強みだと感じています。以前レストランで鹿肉を食べる機会があり、そのおいしさに驚きました。そこで、私もジビエ肉を料理してみたいと思い、狩猟を始めました。群馬県の猟友会に所属し、わな猟に出かけています。ジビエ肉を使ったレシピも考案しています。
Q:今後は、どのように活動していく予定ですか?
A:食べてみないとわからないこと、やってみないとわからないことはたくさんあると思います。だからこそ、体験型のイベントを開いて、実際に食べてもらう機会を増やしていきたいと思っています。任期終了後はまだ漠然としていますが、食を通じて思い出や時間を提供できる料理人として働いていきたいと考えています。
Q:これから隊員を目指そうと思っている人へメッセージをお願いします。
A:「協力隊」という肩書があるおかげで、普段なら出会えない人たちと出会ったり、行けない場所に気軽に訪れたりできます。そのおかげで、さまざまな人と知り合い、さまざまなことを学ぶチャンスが増えました。旅行で訪れる楽しみとは違って、その土地に住んで生活してみることでしか味わえない面白さがあります。実際に暮らしてみることで起こる化学反応を楽しんでほしいと思います。
スローなまちづくり全国推進委員会
https://slowfriendsjapan.com/
(取材日:2024/10/17)