空き家リノベーションから始める地元への地域貢献
Q:渋川市の地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:前職で、警備会社の営業をしていました。当時、東京オリンピックの関係で警備の人材がより多く必要となり、24時間体制の警備の仕事も担当することになりました。夜間の業務になると、車の出入りも減り、一人で考える時間が増えました。元々何かに挑戦したいという思いがあり、一人の時間に「このままでいいのかな」という考えが頭によぎるようになりました。当時、入社4年目だったのですが、失敗するのなら20代のうちにやりたいことをやっておこうと思って、その年に仕事を辞めました。ちょうどその時期に、渋川市にある出身小学校が廃校になっていることを聞いて、廃校を使った何かをできればいいなという思いから渋川市役所に話を聞きに行きました。その時に、小学校を借りるというのはハードルが高いということで、逆に市役所側から提案してもらったのが、空き家のリノベーションでした。渋川市は地元でもあり、もともと帰ってきたいという強い気持ちがありましたし、タイミング良く地域おこし協力隊の募集があったので、この制度を利用することにしました。他の市町村にも同じようにお話を伺いましたが、唯一渋川市だけ空き家リノベーションという逆提案をいただけて、一方的ではなく、やり取りの中でキャッチボールができたというのも決め手の一つです。
Q:今の活動内容について教えてください。
A:高校生たちと一緒に空き家のリノベーションを行っています。地域おこし協力隊として活動していくために、空き家を探していたところ、道路に面していないため不動産に出せないということから安く譲っていただいたのが、今リノベーション中の家です。大きさ的にもちょうどよく、決め手になりました。高校生と都合の合う土日を利用して、彼らが主体となって意見を出し合いながら進めています。作業も、壁紙貼りや部屋の雰囲気が大きく変わるような楽しい作業は高校生と一緒に進めながら、細かい部分は一人でやっています。高校生と活動しようと思ったきっかけは、学生のうちにいろんなものに触れるのっていいなと思っていて、高校生たちには「いい経験だな」と思ってもらえればいいくらいの感覚です。自分だけの考えだと「古い=和風」という固定概念にとらわれてしまうので、若い子たちからの意見はとても刺激になります。
あと、今年は主催者としてイベントの運営にも携わっています。地元に戻ったら地域貢献を軸に活動したいと考えていたので、イベントを通して渋川でも楽しいことがあるというのを、地元の若い世代や市内の人たちに伝えていきたいと思っています。具体的には、空いているテナントや店舗を使って、外から事業者を呼んで飲食店を開くイベントを構想しています。人の流れや需要を読み取って動いて、それが市の活性化や賑わいにつながっていったらいいなというのが最終目標です。
Q:活動の中で印象に残っていることはありますか?
A:不動産知識がゼロの状態だったので、はじめは知らないことばかりで、知り合いの不動産屋さんに行ったり、テキストを使って勉強しました。建築関係の知識や技術も、休みの日に現場があれば行って教えてもらったりしていました。その中でも内装工事のボード貼りが印象に残っています。壁紙の下に下地の板みたいな壁を張るのですが、空き家のような古い家だとゆがんでいたり凸凹しているので、細かく計測して丁寧に切る必要があり、とても苦労しました。でも、それもしっかりプロの方にコツを教えてもらって、専門の機材を使わせてもらうと素人でもきれいにできるんです。それはとても良い経験になりました。
Q:これからの目標を教えてください。
A:最近、地域おこし協力隊とは別の仲間2人と清掃業を始めました。きっかけは、今リノベーション中の空き家を購入した際に、残置物の処理が大変なことを実感したためです。まだ、資格を取得していないので、仕事としてすぐにできるわけではないのですが、ゆくゆくは起業して空き家の流通に貢献していきたいと考えています。今やっている空き家関係の活動を継続しつつ、イベントなど地域のためになることもやりながら、ちゃんと稼げる状態を作っていけたらなと思っています。ただお金を稼ぐためだけに何かをしていくのではなく、地域のためになることを考えて活動していきたいです。今リノベーションを行っている空き家は、移住希望者のお試し体験の場として利用してもらったり、地域の学生が集まる場所として使ってもらえればと考えています。最終的には、渋川市に帰ってくるきっかけにもなった「廃校になった小学校を使って何かをする」を叶えたいですね。まだ具体的に何をするかは決めていないのですが、母校のほかにも廃校はあるので、需要を探りながら動いていければと思っています。
Q:これから地域おこし協力隊を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
A:活動を始めてちょうど2年になるのですが、任期が3年と考えるとあっという間です。知識経験がゼロで何もわからない状態でスタートしたので余計にそう感じるのだと思いますが、いろいろできるようになるまでに1年くらいかかったりすると、自由に気兼ねなく活動できる期間は少ないです。なので、それなりの覚悟は必要になってくるなとは思います。でも、やる気さえあれば良い経験になりますし、自分自身も起業したいという気持ちがあるので、その準備期間としてはすごく良い制度だと思います。
(取材日:2023/11/10)