“ここに生まれてよかった。ここで生きててよかった。”と思えるような地域づくりが私の活動のコンセプトです。
Q:嬬恋村の地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:大学卒業後、京都で2年ほど保育士として働いていましたが、ずっと「田舎に住みたい」という夢があり、今しかできないことがあると思い、田舎暮らしを調べ始めました。調べるうちに田舎には仕事がないことに気づいて。そんなとき、以前『遅咲きのヒマワリ』というTVドラマで、地域おこし協力隊を扱っていたのを思い出しました。それで、JOINのサイトに掲載されていたたくさんの自治体の中で、嬬恋村の「愛妻の丘」の写真が目に留まったのがきっかけです。嬬恋村はもちろん、群馬がどこにあるかも知らなかったけれど…(笑)。
面接と現地説明会のために初めて村を訪れたのが、赴任前年の2018年12月。軽井沢まで夜行バスで来て、そこから役場の方に迎えに来てもらいました。面接してくださった方たちの印象がすごくよくて、軽い気持ちで「来ちゃっていいかな」と思いました。だめだったら保育士という資格も持っているし、とりあえず挑戦してみようと思ったんです。
村の第一印象は“茶色い!”。写真で見たのは春の嬬恋で、一面緑ですごくきれいだったので。でも、空の広さには感動しました。同期のもう一人はジオパークに配属され、私は希望して観光協会に配属されました。
Q:実際の活動内容について教えてください。
A:まずは2020年2月に開催した「冬の運動会」ですね。-10~20℃にもなる厳冬期にあまりイベントがなくて、冬に体を動かすイベントを開けたらいいなと思って。「冬の運動会をやりたい」と周りに話していたら、嬬恋村キャベツーリズム研究会を紹介されました。この研究会は、協力隊と同じく村の総合政策課が運営していて、農業と観光をマッチングさせて何か村を盛り上げる面白いことをしようという会です。研究会のメンバーの中で一緒にやっていただける方を募ったところ10名ほど集まりました。企画をプレゼンしたのが9月ですが、10月に台風で村が大きな被害を受けてしばらくは動けませんでした。メンバーが集まってようやく再スタートしたのが12月初旬。そこから急ピッチで約10名の方と企画の詰めと準備を進めました。 イベントの目的は、村の人に嬬恋の魅力を再発見してもらうことと、職業や地域、年齢に関わらず一緒に楽しんだり、同じ機会を共有できたりする場所をつくること。場所は、安定して雪があり、広くて平らで競技がしやすいところを探し、東海大学の嬬恋高原研修センターの多目的グラウンドを使わせていただきました。
村民限定のイベントで、とにかく嬬恋の人が楽しめるもの、嬬恋の人が熱くなってくれるような競技ということで、競技名やチーム名にもこだわりました。
当初は雪合戦をイメージしていたのですが、普段雪の上ではやらないことをやろうとアイデアを出し合い、つまごいの頭文字をもじって、「つるつる綱引き」「まごまご丸太人間はこび」「ごちゃごちゃ嬬恋カルタ取り」「いけいけソリレー」の4種目に決定。私がどうしてもやりたかった「雪上宝探しゲーム」は、企業にも協力いただいてエキシビションとして行うことができました。
チーム名も、私は白組・紅組…と思っていたのですが、嬬恋の運動会では山の名前だと教わり、浅間団、白根団、湯ノ丸団、四阿団の4チームとしました。すべて嬬恋にある山ですが、地域によってチーム名に選ぶ山が違うみたいで、実はこのチーム名を決めるときの議論が一番白熱しました(笑)。
70名くらい参加いただいて大盛況でした。なんとか新型コロナウイルス感染症が拡大する前に開催できて、今までの活動成果としては一番大きいものとなりました。
Q:そのほかにはどんな活動をしていますか?
A:普段は観光協会の業務を行いながら、協力隊員として地域に貢献できる活動を考えています。地元の人が「ここを見て!」と思うところを発信して、それに刺さる人たちに嬬恋のファンになって何回も来てほしい。ずっとつながる人を見つけたい。それにはまず、地元の人が嬬恋を知るところから始めて、嬬恋を自慢できるようになってほしいから、住みたい場所になるような地域づくりを、私の活動のメインテーマにしています。
例えば「ブックパーク」。村内に図書室はあるけれど、いわゆる図書館がない。子育て世代には、子どもが身近に本に触れられる場所が必要だと思って、そういう機会を作りたいと、月1回図書室の本を持ち出して屋外図書を開きました。屋外の芝生の上で、親子で読書を楽しんでもらう企画です。この活動は9月から始めたのですが、すぐに台風が来て、その後は冬になって、今はコロナ禍で活動が難しくなっています。
コロナ禍が収束したらやりたいことはいっぱいあって、パソコンのフォルダにやりたいことリストがずらっとあるんですけれど…(笑)。今はできないことが多くてもどかしいけれど、とにかく地域を盛り上げたいという思いで日々活動しています。 村の協力隊員は現在4人。一緒に活動することは少ないですが、エフエム軽井沢に協力隊の放送枠をいただいて交替で出演しています。それから、「広報つまごい」にも協力隊の連載枠があって、順番に記事を書いています。
Q:活動の相談や、情報収集はどうしていますか?
A:最初に頼るのは村役場の総合政策課です。相談してみて、大丈夫そうだったら企画書を上げて進めます。
県のサポートも手厚いですね。定期的に交流会があって、アドバイザーやOB隊員のお話、他市町村の隊員との情報交換からも、活動のヒントをもらえます。やりたいことや困っていることを話すと、「それならこの人に会ってみたら」と、人を紹介していただくこともよくあります。
私はしっかりした目的もないまま、ただ田舎に住みたいというだけで隊員になったので、最初は意識が低いかなと気が引けていましたが、「私もそうよ」という人が意外とちゃんと居場所を作っているんです。知らない土地に一人で入ったという立場が同じだから、隊員同士で話すと気持ちが楽になるし安心します。群馬の協力隊でよかったと思うことは、そういう横のつながりがあるところですね。
Q:嬬恋村での暮らしは、いかがですか?
A:すごく住みやすいです。特に夏が気持ちいい。どんなに暑くても30℃。車さえあれば特に不便はありませんね。もちろん、それまで暮らしてきた京都とは生活文化が全く違うので、最初は小さな不満がいろいろありました。例えば、スーパーの閉店時間が早いとか、洋服を買う場所がないとか…。でも今は、この場所にはこの場所の必然性があるのだから、違って当たり前だと割り切れるようになりました。むしろ文化が違うことに意味がある、違うことに対価を払ってもらっていると思うんです。
よそから来た者としての視点で、住民が気付かないことを伝えていくことも、私たちの仕事だと思います。だから、役場の会議などに出席した時も、気付いたことを発言しています。それに、私自身も全く違う文化に触れて、視野が広がり、自分の成長につながったと思っています。
村の人はみんな優しいし、地域の人といっぱい関われるのはすごく楽しい。実は私、嬬恋の人と結婚したので、任期終了後も村に残ることは決定しているんですよ。
Q:地域おこし協力隊を目指そうと思っている人にアドバイスがあれば。
A:田舎で起業したいとか、手に職を付けたい、特別な技術を身に付けたいなど、はっきりとした目的を思って協力隊に来る人もいれば、私のように田舎で暮らしたいというだけで来る人もいます。自治体を選ぶとき、自分とマッチングしそうなところを探すことが、何より大事だと思います。
(取材日:2020/9/23)