隊員&OB・OGインタビュー

養蚕から織物まで、上質な絹製品づくりで富岡市の絹文化発信に役立ちたい。

富岡市 上原和江さん 活動3年目(2016年4月~)

Q:富岡市の地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:ここに至るまでがちょっと長いんですよ(笑)。
初めは東京でシステムエンジニアとして働いていたんですが、アトピー性皮膚炎を発症してしまったことをきっかけに、食生活を始めとする生活全体を見直すようになって。人生の8割くらいは仕事、それなら意味のある仕事をしたい!と、まず女性起業塾に入りました。

好きだった手仕事で起業を、と考えたけれどスキルがない。そこで、ニューヨークに渡り、4年間絵の勉強をしました。イラストを学びましたが、ニューヨークには天才がいっぱいいて、とても無理だと。

そんなとき、ファッションデザイナーの友人を通して、日本の布の素晴らしさを知ったんです。自分がアレルギー体質ということもあって、人間の体に優しいものを提供できるようになりたい、日本で勉強して日本の自然からものづくりをしたい!と考えるようになりました。

調べているうちに、奄美大島に機織りの修練所があることがわかり、そこに受け入れていただいたのが織物との出会いです。大島では大島紬の親方さんのところで4年間修行。新商品開発にも携わり、親方と一緒に新しいブランドの立ち上げも経験しました。
織りだけでなく、糸も作りたいと野生の蚕をかき集めて養蚕にも挑戦しましたが、大島では養蚕や繭から糸を取る技術をお持ちの方はいらっしゃらなかったんです。

そういう経緯があって、桑畑や養蚕文化が残っている場所を調べているうちに群馬県に行き着きました。そこから、まずは仕事をしながら養蚕を学べないかと調べているときに、富岡市の地域おこし協力隊を知って応募したというわけです。

Q:実際の活動内容について教えてください。


A:1年目は養蚕ですね。私は体で覚えるタイプなので、蚕糸技術センターで研修を受けた後、養蚕農家さんを紹介してもらって一から学びました。

2年目は、養蚕から製品作りまでを目標にしました。それには資金が必要なので、国の創業助成金に応募。その際、応募資格の一つとして開業しなければならなかったので、開業届を出して「Shinra(シンラ)」というブランドを立ち上げたんです。自然のものにこだわっているので「森羅万象」という言葉から名付けました。

“養蚕から織物までのものづくり”がコンセプトなので春蚕(はるご)だけは自分で育てています。糸は紡ぐものと座繰りにするものと2種類あって、紡いだ糸からはストールなど、座繰りからは反物を作ります。

「きびそ(生皮芋)」という繭から糸を引くときに最初に固まって出てくる部分を集めて糸にして織った製品も開発しました。きびその糸は、太くなったり細くなったりで機械織りには向きませんが、手織りならその持ち味を生かせます。繭の一番外側なので、織った布はとても丈夫。シャリ感のある独特の風合いが出せるんです。

3年目の今年からは販売も手がけるようになりました。3年間の間に、地域資源を生かしたブランドで独立するのが私のミッションだと思っているので、独立を目指しているんです。

富岡市のふるさと納税の返礼品にも採択していただき、オーダーメイドの商品を受注いただけていることはありがたいですね。

私一人だと製品づくりも限られるので、障がい者雇用で養蚕事業を手掛けるパーソルサンクス株式会社と提携して、きびそ製品の製作を委託する準備を進めています。ゆくゆくは、国産シルク、富岡市、障害者活動というキーワードで「きびそ」の物語を作りたいですね。

Q:富岡市に暮らしてみた感想を教えてください。

A:とても暮らしやすいまちという印象です。生活するのに過不足無く、ほとんどのものが近くで揃います。大自然にもアクセスしやすい一方、商業施設も近くにあるので買い物なども不便はありません。どこに行くにもちょうどいいですね。

それと、富岡は群馬名物の赤城おろしが直撃しないのもよかった(笑)。実は、群馬に住むといったら、周りの人たちから空っ風を心配されていたんです。強風や乾燥は、私のようなアレルギー体質にはちょっときついので。

Q.他の協力隊員との関係はどうですか?

A.みなさんそれぞれ独自の活動をしているので、何かを一緒にすることは無いのですが、イベントとか展示会等のときは情報交換しています。昨年は、私の創業助成金の新商品発表会のとき、他2人が応援に来てくれました。

草木染めや藤織りの研修に行った際には、他の市町村の協力隊員にも会いました。そのうちの藤織りの継承と保全をしている協力隊員とは、協力隊最後の成果発表のとき、展示やワークショップをいっしょにやろうと企画しています。

絹だけじゃなく、藤織りなど日本古来の自然布の文化も再評価されてきているので、そういう文化を全体的に底上げできればと思っているんです。

Q:任期終了後について教えてください。

A:富岡市に残ってブランドを続けていくつもりです。なんとか軌道に乗せて、ブランドの発信力を高めると同時に富岡市の絹文化のPRにも役立つようになって、お世話になった方々にお返ししたいと思っています。

今、商工会議所の小規模事業者持続化補助金に応募していて、次の商品開発にもチャレンジしています。クラウドファンディングもやりたいと思っているんですよ。

これからも、天然にこだわった上質な製品づくりで、私のようなアレルギー体質の人や本物を求めている人に喜んでいただけるようになることを目指しています。