隊員&OB・OGインタビュー

出会いが導いた、新しい挑戦-クラフトジン-

前橋市 前田慶亮さん OB(2021年4月~2024年3月)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:2021年4月から3年間、前橋市の地域おこし協力隊として活動しました。
前橋に興味を持ったきっかけは、当時住んでいた新潟県三条市で出会った、前橋から三条市の地域おこし協力隊になられた方の存在です。その方を通じて前橋の話を聞くうちに関心を持ち、実際に前橋を訪れるようになりました。飲食店をめぐったり、敷島公園を散歩したりするなかで知り合いが増え、人とのつながりが広がっていったことが、前橋に惹かれた大きな理由です。
もう一つ魅力的だったのが、まちなかエリアで進む再開発の動きでした。初めて訪れたときは白井屋ホテルが開業前で、街全体が「これから何かが始まる」という雰囲気に包まれていました。行政主導ではなく、民間の人たちが自らの手でまちを動かしているエネルギーを感じ、その変化を間近で見たいと思うようになりました。そんななか、市議選をお手伝いする機会があり、約2か月間前橋で生活しました。その期間にも、まちなかを盛り上げていこうと活動する多くの人との出会いや、まちの変化に立ち会うワクワク感が重なり、地域おこし協力隊としてこのまちに関わりたいと思いが強まりました。

 

Q:隊員だった時の活動内容を教えてください。

A:委嘱先である前橋まちなかエージェンシー(MMA)のスタッフとして活動しました。MMAの考え方や方向性は、協力隊になる前から理解していたので、最初から自然に溶け込めました。協力隊の面接の際、MMAの代表である橋本薫さんから「僕らが君を採用する理由はありますか?」と聞かれたんです。僕は「採用しない理由があるのであれば聞かせてほしい」と答えました。それくらい、自分のこれまでの経験とMMAの方向性が重なっているという自信がありました。フリーランスのカメラマンとして活動していたこともあり、写真やデザインのスキルを生かして、イベントの企画・運営や「まちなか新聞」の取材・制作、広告やチラシのデザイン、撮影などを担当しました。また、大工のアルバイト経験を生かして、空き家や空き店舗の改修・リノベーションにも関わりました。自分の得意なことが、そのまま地域の仕事になっているという実感があり、やりがいを持って活動できました。

 

Q:隊員時代に経験した、うれしかったことや大変だったことを教えてください。

A:一番うれしかったのは、知り合いがどんどん増えていったことです。前橋のまちなかの人たちは本当にウェルカムな雰囲気で、よそから来た自分のことも自然に受け入れてくれました。地方では、よそ者として距離を感じることもあると聞きますが、前橋ではそうした壁を感じることはほとんどなく、商店街の方々もとても親切でした。そのおかげで、まちに馴染めたという実感を持てたのが、何よりうれしかったです。
一方で、一番大変だったのは、協力隊としての3年間をどう積み上げていくかを考えることでした。協力隊の任期が終われば、制度上の区切りがあり、3年後にどうするのかを常に意識していなければいけません。「3年後、自分は何をしているのだろう」「この経験をどう次につなげていけばいいのだろう」と、日々自問しながら過ごしていました。
2年目の終わりの頃になると、「あと1年しかない」という焦りを感じるようになりました。そんなとき、「クラフトジンの蒸留所を始めようと思っている。一緒にやらないか」声をかけてもらったんです。お酒づくりに誘われるなんて、人生でそうそうあることではありません。すぐに「やります」と返事をしました。それが今の仕事につながる大きな転機になりました。

 

Q:現在のお仕事を教えてください。

A:協力隊の任期を終えた2024年4月から、「一緒にやらないか」と声をかけてくれた二口圭介さんと、アメリカ在住のジャン=リュックさんが共同経営する双子蒸留所株式会社に入社しました。入社した当時は、実はまだ蒸留所そのものが存在していませんでした。立ち上げ準備を進めながら、お酒づくりの勉強を始めました。お酒をつくるには酒造免許が必要で、その申請では「誰がつくるのか」という点も重要です。僕も作り手(蒸留家)として認めてもらうため、研修に参加させてもらいました。計2週間の研修を通して、仕込みから蒸留、瓶詰め、ラベル貼りまで、一連の工程と帳簿管理を学びました。実際に蒸留が始まったのは2025年6月。蒸留器を動かし、自分たちの手でクラフトジンを生み出した瞬間、「ようやく形になってきた」と強く実感しました。

 

 

Q:これからの目標を教えてください。

A:この仕事の一番の魅力は、「計算できる部分」と「計算できない部分」が共存していることです。蒸留量や度数といった数値は計算できますが、味や香りは数字では表せません。同じレシピでも、毎回微妙に違う味になる。その予測できない面白さがあります。
ジンは自由度が高いお酒で、「ジュニパーベリー」さえ使っていれば、素材や組み合わせは無限大です。植物や果物はもちろん、木の枝や苔なども試すことができます。自分の感覚を頼りに味をつくっていく工程は、本当に楽しく、ジンづくりの世界に飛び込んでからは毎日が発見の連続です。
何もないところから始まったプロジェクトが少しずつ形になり、自分が手がけたジンが瓶詰めされ、商品として並んでいるのを見ると、本当にうれしくなります。蒸留家という肩書をまだ実感しきれていない部分もありますが、一つひとつの工程に思い入れを持ちながら、丁寧に積み上げていきたいと思っています。
これからの目標は、ジンづくりに使うさまざまなボタニカル(植物素材)について、生産地や生産者のもとに直接足を運び、自分の目で選べるようになることです。二口代表ともよく話しているのですが、前橋だけにこだわらず、群馬全体の素材を生かした蒸留所を目指しています。

 

Q:これから隊員を目指そうと思っている人に向けて、アドバイスをお願いします。

A:僕自身、協力隊になる前から受け入れ先とのマッチングやすり合わせがとてもうまくいったと感じています。協力隊になる本人もそうですが、受け入れ先が行政なのか民間なのかに関わらず、「自分が何をしたいのか」「まだ明確にやりたいことがないのか」も含めて、一緒にしっかり話し合う時間が大切だと思います。実際、そうしたすり合わせが十分にできずにうまくいかなかったり、活動を続けられなかったという話も聞くので、僕は“なる前の段階”が特に重要だと感じています。もちろん、なってからの関係づくりも大切ですが、お互いがウィンウィンで活動できるためには、最初の段階での丁寧なすり合わせが何より大事だと思います。

 

(取材日:2025/10/14)

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