縁がつないだ新たな挑戦。学びを育む「吾妻塾」。

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:地域おこし協力隊になったきっかけは、タイミングが一番大きかったと思います。もともと茨城県で塾の講師をしていたのですが、その頃、NPO法人中之条コネクトの立ち上げに関わっていた枝さん(現・事務長/理事・元中之条町地域おこし協力隊)から「中之条町で地域おこし協力隊の募集がありますよ」と声をかけていただきました。当時、僕はちょうど40歳。子どもたちに勉強を教える仕事は好きでしたが、生活リズムは朝11時に起きて夜中の4時に寝るといった不規則なもので、一般的な時間帯とはずれていました。このまま60歳、65歳まで同じ働き方を続けていくのか、それとも新しいことに挑戦すべきか、自分の中で大きな転換点にいました。ちょうどそのタイミングで声をかけてもらったことが、協力隊になる大きなきっかけになりました。
ただ、それだけではありません。その少し前に一度、中之条町を訪れる機会がありました。それまでは町のことは全く知らなかったのですが、枝さんに招待していただき、たくさんの人と関わる中で「ここでなら、自分のできることを新しく始められる」と感じました。そのとき、人生の最後のチャンスかもしれないと思い、思い切って飛び込む決心をしました。
Q:隊員時の活動について教えてください。

A:主な活動は農業支援で、農家さんと協力関係を築きながら、農作物の販売や加工など、いわゆる6次産業化に取り組むことが中心でした。それに加えて、町から委託された施設の管理業務なども担当していました。
特に大変だったのは、農家さんとの協力関係を築くことです。最初のうちは、誰が誰なのかも分からない状態で、とにかく関係づくりに必死でした。しかし今では、その過程を通じて中之条町の魅力を感じています。町の人たちはとても温かく、外から来た人も快く受け入れてくれます。僕はよく「中之条町は本当にいい人が多い」と話しているんです。前職では、毎日会社に行き、関わる相手は決まった同僚や生徒たちだけで、その日に会う人はほとんど固定されていました。でも中之条町では、どこへ行っても誰かに出会い、自然と立ち話が10分、15分と続くこともあります。そうした日常の中での人のつながりが、とても楽しく、新鮮で、ここに来て良かったなと感じる瞬間です。
隊員としての活動の中で印象に残っているのは、3年目に開催した「いちごフェア」です。中之条町は東京都北区と友好都市の関係にあり、赤羽駅前の「赤羽スズラン通り商店街」で「中之条町フェア」を開催しています。過去2回のフェアでは、いちごが大人気だったことから、東吾妻町・高山村を含む3町村合同で、いちごをメインに販売会を企画しました。この「いちごフェア」は大盛況となり、今年も再び開催に向けて話が進んでおり、とても楽しみにしています。
Q:現在のお仕事内容を教えてください。
A:NPO法人中之条コネクトに所属し、2025年4月から総合学習支援塾「吾妻塾」の塾長として活動しています。吾妻塾では、単に知識を教えるだけでなく、「勉強のやり方」や「勉強を継続する方法」を重視しています。限られた塾の時間だけで成績を上げることは難しいため、生徒一人ひとりに合わせて、家庭学習の進め方や教材の使い方を具体的に提案しています。
塾には主に中学・高校・大学受験を考えている生徒が通っており、それぞれの目標や夢に向かって進むサポートを行っています。まだ夢が見つからない子どもたちには、「自分だったらどうしたいか」を一緒に考える時間を設けています。授業後に生徒が残って話していく姿を見ると、以前の塾講師時代に感じていた、人と向き合う喜びを改めて実感します。受験が近づくと、生徒たちが集中して努力する姿も見られ、火がつくタイミングをどうつくるかといった今後の課題も見えてきました。雇われて働いていた頃とは違い、今は自分の責任で、生徒が自ら考え、行動できる環境をつくることができます。生徒一人ひとりが思い描いた道に進めるように、どのようにサポートするかを考えることに、やりがいと面白みを感じています。
Q:これからの目標を教えてください。
A:これまでの人生で「絶対これを成し遂げる」というような大きな目標を持ったことはなく、今も特別な目標はありません。ただ、これまでもこれからも変わらず大切にしているのは、「その日その日を楽しく生きること」です。「楽しく」のバリエーションは前職で十数年働いていた頃よりも、中之条で過ごしたこの4年間の方が、ずっと多彩になったと感じています。
現在は、中之条コネクトでの活動と塾の運営を通して、生活の基盤を築きながら、自分なりに町のためになることに取り組んでいます。中之条町イメージキャラクター「なかのん」のグッズをさりげなく身につけてアピールするなど、日常の中で、わが町中之条をPRすることも心がけています。
Q:これから隊員を目指そうと思っている人に向けて、アドバイスをお願いします。
A:地域おこし協力隊を目指す方には、まず制度の仕組みをしっかり理解したうえで参加することをおすすめします。協力隊は基本的に「定住支援」を前提とした制度です。地域に根ざして暮らす覚悟を持って来ることが大切です。地域の環境や人間関係が合わない場合もありますが、事前にその点をよく考えておくことで、活動を続けやすくなります。
もう一つ大切なのは、「自分は何をしたいのか」「何ができるのか」を明確にしておくことです。実際の活動では、自分のやりたいことを100%実現できる環境は多くなく、現実的にどの範囲で実現できるかを考えることが必要です。事前に行政担当者へ質問し、どの程度柔軟に対応してもらえるか確認するのも有効です。大切なのは、「何をしたいか」という思いを持つことと、同時に「現実的に何ができるか」を考えること。そのバランスを意識することで、地域との関係づくりもスムーズに進められると思います。
(取材日:2025/10/20)