隊員&OB・OGインタビュー

有害鳥獣の被害を地域一体となって守れるように。

東吾妻町 宇田川翔さん 活動3年目(2022年4月~)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:ジビエに対して興味を持ち始めたのが最初のきっかけです。以前は東京の杉並区に住んでいたため、東京近郊で行われているジビエの試食体験や狩猟体験ツアーに参加していました。参加するにつれ、狩猟鳥獣を自分で捕獲し、捌いて食べてみたいという思いが強くなり、令和3年に第一種猟銃免許とわな免許を東京で取得しました。
しかし、以前住んでいた地域では、狩猟免許を活かした活動を行うことが難しく、自分が本当にやりたい活動ができないというもどかしさを感じていました。そのような時、報道で地方ではイノシシやニホンジカなどによる獣害が問題になっており、狩猟免許を持っている獣害対策要員が求められていると知りました。初めは地域おこし協力隊の制度は知りませんでしたが、獣害対策の求人を探していくうちに協力隊のHP上にて東吾妻町が有害鳥獣被害対策要員の募集をしているのを見つけ、応募しました。
前職は杉並区の児童館職員として勤務しており、頻繁に杉並区と東吾妻町の小学生を対象とした子ども交流事業が行われていたため、「東吾妻」の名前だけは以前から知っていました。そのようなご縁もあり、令和4年度に東吾妻町役場の農林課に協力隊として着任しました。

 

Q:活動内容について教えてください。

A:主には、獣害対策業務や林道整備の補助、農林課主催のイベント事業などです。農林課窓口では、町民の方からの獣害相談の対応や猟友会の方々が捕獲・駆除した鳥獣の事務処理対応を行っています。
着任2年目に「カズ―」という楽器の設計図を作図し、町内の木材事業者と協力し、東吾妻産の木で小学生でも簡単に作ることができるカズーのクラフトキットを作りました。農林課主催イベントで私が担当した狩猟体験コーナーの景品として使用したり、杉並区で行われた七夕まつりで東吾妻町ブースのアンケート回答者にお礼品として使用したりしました。
また毎年、町民向けに獣害対策の情報を掲載した回覧資料を作成し配布しています。なるべく幅広い層に情報を受け取って欲しいため、イラストや写真を多用し、子どもが見ても分かりやすいものを作るよう意識して作成しました。私自身も猟友会に所属しているので、有害鳥獣捕獲等従事者として町のニホンザル群の調査・駆除をすることや、山林に入り罠を仕掛け、大型の有害鳥獣を捕獲・駆除することもあります。
その他、前職の繋がりから昨年度と今年度に、東吾妻町と杉並区の子ども交流事業にも役場職員の一人として参加しました。ケガや体調不良などのトラブル無く、数日間交流できるよう学生リーダーや子ども達のフォローに入ったり、木工クラフトタイムでは東吾妻の木材を使用し、町のマスコットキャラクターの「水仙ちゃん」の焼き印を入れたコースターや木製ループタイの材料や工作道具などを準備したりと、子ども達が楽しく交流できるようサポートしました。

 

 

 

Q:活動の中でどんなところにやりがいを感じますか?

A:町内の方が役場に直接来庁し「回覧で見た獣害対策冊子を手元に置いておきたいので一部貰えますか?」と窓口で言って下さると、私の活動が地域の役に立っていることを実感でき、やりがいを感じます。
また、着任したばかりの頃は、銃猟と罠猟の狩猟免許は持っていましたが、獣害対策の知識は殆どありませんでした。屋外調査や獣害対策研修に参加するにつれ、狩猟の知識だけでは野生動物による様々な被害を減少させることは難しく、より専門的な対策が必要であるということを知りました。そのため、なるべく多くの獣害対策の研修に参加し、学んだ情報を課内に可能な限り共有するよう心掛けていました。課内職員のサポートがあり、様々な獣害対策研修に参加することができたので着任から現在に至るまで、課内の上司や職員の方々には本当に感謝しております。残り数か月の任期となりましたが、町内の獣害減少に繋がるような活動をお手伝いできればと思っています。

 

Q:東吾妻町の印象を教えてください。

A:思っていたより東京からのアクセスが良いです。役場の近くに高速バスの停留所があり、途中休憩を挟み3時間程で東京に帰ることができます。運賃も片道2,500円程と財布に優しいため、帰省する際はその高速バスを多用しています。
また私が現在住んでいる場所は、東吾妻町の中でも特に冷えこむ地域なので、近隣や役場の方々に真冬の過ごし方のアドバイスをいただくことがありました。着任したばかりのまだ地域に慣れていない時期にも声をかけて下さったり、自家栽培している野菜やお米などを頂いたりと、様々な場面で助けてもらいました。
現在借りている住居の庭には、駆除した動物を解体するスタンドや道具が置いてあり、プライベートの時間を利用し、鞣し用の皮を剥いだり、食用にする肉を解体したりしています。以前住んでいた地域では、そのような大胆な行動は恐らくできないので、そういった点でも地域環境や周囲の方々に恵まれていると感じます。

 

Q:今後の目標があれば教えてください。

A:狩猟や獣害対策の知識・技術をさらに向上させたいです。くくり罠や金属製箱罠での捕獲に一度失敗した場合、特に嗅覚が優れているイノシシは警戒心が強くなります。そのような個体は金属、オイル、人間などの山林内では異質な匂いに敏感になっており、くくり罠や金属製箱罠で捕獲することが困難です。法律上、くくり罠や箱罠を全て木材で作ることは禁止されているので、金属やオイルの匂いを極力消す工夫をしたり、くくり罠の一部を木製のものに変えてみたり、警戒心が強い個体でも捕獲できるような知識と技術を身につけたいと思います。
また現在行っている個人的な活動として「狩猟普及委員会」というWEBサイトを自作し、全国の獣害で困っている方や狩猟に少しでも興味・関心がある方にとって役立つような情報を発信しています。( https://www.hito-yasumi.net
将来的にはこの「狩猟普及委員会」を、狩猟体験と宿泊を掛け合わせた「猟泊事業」や、近隣の獣害に悩んでいる方々を対象とした「獣害対策支援事業」などを事業化させるためのツールとしても活用していきたいです。
「猟泊事業」は、キャンプ場や宿泊施設のオーナー、地域の猟友会と協力しやっていきたいと現段階では考えていますが、自分で小さな宿泊施設を経営し、そこを活用して体験型観光事業を行ってみたいという思いもあるので、事業化にはもう少し時間が必要かなと思っています。

 

 

 

Q:これから隊員を目指そうと思っている人へアドバイスをお願いします。

A:協力隊として活動する目的は人それぞれですが、もし起業を目指しているのであれば、大まかなモノでも良いので「事業計画」を作成されると良いと思います。
事業計画を作れば、起業に必要な知識や技術、資格の他、継続に必要な売上金や利益、大まかな初期費用や維持費用などを確認することができます。現段階で自身に必要なモノやコトもある程度認識できます。加えて、起業時に利用できる補助金や支援制度を事前に知ることもでき、計画をもとに退任までロードマップを作れば、大きくブレることなく協力隊として活動を続けることができるかもしれません。
また事業案は一つでなく、自分の行いたいコトの軸に沿った案を複数考えながら活動するのもアリかと思います。起業に向けて活動すると、予想よりも事業化が困難で計画が止まる可能性もあります。近い将来への不安を抱えたまま活動することにより、心を病んでしまう方もいるかもしれません。そうした場合に併行して計画している案があれば、そこまで不安を抱えることなく、立ち止まらずに活動を行っていけると個人的には思います。私自身はこんな感じでやっていましたが「なりふり構わず勢いよく突っ走る」コトも大切だと思います。最後にこれから協力隊を目指す方々の活動を心より応援しています。

 

(取材日:2024/11/12)