彫刻家として、デザイナーとして、嬬恋村を活気づけたい。
Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
A:実は、地域おこし協力隊の制度について、何も知らないまま応募しました。当時、海外で働きたいという思いがありましたが、ちょうどコロナの最盛期で、「今、行くべきではない」と思いとどまり、転職サイトで仕事を探し始めていた頃でした。転職サイトから届くメールの中に「嬬恋村地域おこし協力隊」があり、そこに書かれていた「3年間、家賃と車が補助される」というキーワードにただただ惹かれました。最初は「嬬恋村」という字も「つまごい」と読めなかったぐらいの状態でしたね。
「彫刻家の活動ができること」が、私の仕事探し・移住先探しの条件でした。私は木彫家なので、チェーンソーを使用したり、木槌でノミをカンカンと叩いたりして作品を作ります。住宅街にあった実家では騒音問題があり、思うように作業ができませんでした。嬬恋村なら、住む場所さえ選べば、彫刻家の活動もできるはずと、気軽な気持ちで面接を受けました。面接で自分の思いを伝えると、トントン拍子に話が進み、「アートで嬬恋村を活性化させる」というミッションを与えられ、地域おこし協力隊として嬬恋村に移住しました。
Q:活動内容について教えてください。
A:2021年4月に着任。最初の半年間は村の交流推進課に配属され、自然環境に関係するイベントのチラシ制作や事務仕事を行っていました。私のミッションは「アートで村を活性化させること」でしたが、なかなかその糸口を見つけられず、協力隊としての活動に疑問を抱くようになっていました。そんな頃、嬬恋村観光協会から配属先変更の話をいただいて、2021年10月から、嬬恋村観光協会のデザイン担当として活動することになりました。
観光協会では、デザインスキルをアップするための資格取得に向けて後押しをしていただいた一方、村の総合観光パンフレットやチラシなど、デザイナーとして実績が残るような仕事をさせていただきました。美大時代に得たデザインソフトの知識は多少ありましたが、私は彫刻学科出身ですから、正直、デザインスキルが高かったわけではありません。勉強を積み重ね実践でスキルを磨き、資格(Adobe Certified Professional in Visual Design)を取って、デザインスキルを高めていきました。
仕事の状況にもよりますが、基本的に半日はアーティスト活動をさせてもらっています。嬬恋村に来てから、嬬恋村産木材のイチイやミズキを使って、作品を作っています。私は、木を材料に使う木彫家なので、森林の間伐や環境保全にも興味があり、チェーンソーを使って立木の伐採などを学ぶ「伐木の業務(チェーンソー作業)に係る特別教育講習会」を受け、修了書をいただきました。また、嬬恋村で数少ない製材所と協力して、木材ブランディングに取り組んでいます。嬬恋村の木材を使って、コースターやブローチを作ったり、観光協会のイベントに作品を出品してみたり。コツコツとブランディングを進めてきた中で、ようやく「温泉手形」が形になり、来年か再来年に販売する予定です。
Q:嬬恋村での暮らしはどうですか?
A:協力隊2年目の後半から、嬬恋村定住に向け、空き家探しを始めました。ようやく見つけたのが、別荘地の一角にあるこの家で、水道などのライフライン部分は業者にお願いし、それ以外は自分でDIYし、3年目の春から暮らしています。
隊員になってから、他の隊員に誘われて、他県で開催された空き家改修ワークショップに参加しました。そこで得た知識と経験を、購入したこの家に注いでいます。ボロボロだった空き家を修繕していく様子を動画配信しながら、仕事に出かけ、作品づくりをするといった日々でした。また、我が家を使って「空き家改修ワークショップin嬬恋村」を開催しました。「解体」「断熱」「左官」など5回に分けてワークショップを行いましたが、毎回、抽選になるほど大盛況でした。
嬬恋村に定住を決めたのは、仕事をしながら、彫刻活動ができるという確証が得られたことが大きかったです。加えて、前の職場、現在の職場を通して、かなりの人脈が広がりました。新たな仕事の話もいただいているし、私を気にかけてくれる人もいるので、ここにいたら楽しいなと思うようになっています。
Q:任期終了後は、どのように活動していく予定ですか?
A:彫刻は生きている限り、続けていきたいです。ただ、なかなか収入には結びつかないので、任期終了後は、フルタイムではないのですけど、観光協会にアルバイトとして残ることになっています。また、2024年2月、「うっどくLAUGHと」という会社を立ち上げました。ロゴやチラシ、パンフレットなどのデザインや、木材ブランディング、木彫工房、ワークショップなどを生業とする会社です。笑ってもらえるようなデザインや、ユーモアのあるものを作っていきたいという思いを「うっどくLAUGHと」という屋号に込めました。資源である嬬恋村産木材のブランド化や、アート・デザインの観点から嬬恋村のブランド力向上に力を注ぎたいと思っています。
Q:これから隊員を目指そうと思っている人へメッセージをお願いします。
A:私はやりたいと思ったことに向かって、すぐ動いてしまう性格です。良い悪いがありますし、あとで大変になることもあるのですけど、やってみないとわからないことばかりです。もし、協力隊になることへの不安を抱え、先へ進めない人がいるとしたら、「悩んでいるなら、一度やってみたらどうでしょう」と伝えたいと思います。
(取材日:2024/2/26)