隊員&OB・OGインタビュー

デザインのスキルを活かして暮らす、「半農半X」の可能性。

川場村 丸山茜さん OG(2018年4月~2021年3月)

Q:地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。

A:出身は東京です。都内のデザイン事務所で5年ほど働いていましたが、毎日の満員電車での通勤や仕事のやりがいなどに、だんだんと疑問や違和感を持つようになって転職を考えました。
山のあるところ、緑に囲まれたところに住み、「暮らし」自体にもっと重点を置きたいと思っていたんです。

地域おこし協力隊の制度は、地元の友だちが隊員として群馬で活動していたので以前から知っていました。その友だちは任期終了後にそのまま定住したので、知り合いがいるということも群馬の協力隊を選ぶきっかけになりました。


Q:隊員だったときの活動内容を教えてください。

A:基本的にフリーミッションで、村の基本施策の一つである「農業」を中心に活動を始めました。初めは、川場村のブランド米「雪ほたか」のライスセンターで精米のお手伝いをしたり、トマトやいちご、酪農などの農家さんのもと、収穫や手入れ等を経験したりしました。今まで、「食材」はスーパーに並んでいる物しか見たことがなかったのですが、精米したてのお米は温かいこと、牛は人の顔を覚えること、カボチャに接ぎ木してキュウリを作るなんて衝撃でしたし、畑で完熟したトマトの甘さにも驚きました。何も知らずに食べていたんだなと実感しました。
着任して半年ほどたった頃、たまたま冨士山集落活性化協議会の黒田さんに出会ったことは大きな転機になりました。この協議会は、川場村の奥にある「冨士山集落」の棚田、里山の環境、それを未来に残していくことを中心に、人との交流を大切にしながら集落が元気になるような活動をしています。冬の棚田に7,000本の竹灯籠を灯す「ふじやまプロジェクト」は今では村のイベントの一つになるくらい大きなお祭りになりました。事務局の黒田さんがポスターやチラシを作れる人を探していたこともあり、自分のスキルが活かせるかもと思って申し出たところ、所属させていただけることとなりました。それから任期終了まで協議会の活動に参加しました。

任期中に狩猟免許も取得しました。川場村では、狩猟免許を取って猟友会に入るとキャッシュバックのサポート制度があるので、ありがたかったです。3年目には、村長から川場村新商品のジビエレトルトカレー「月と鹿」のパッケージデザインも担当させていただきました。


Q:隊員時代に経験した、うれしかったことや大変だったことを教えてください。

A:こちらでの暮らしはどれも新鮮で、都心で食べていた米や野菜がどう育っていたのか知れたのもうれしかったですし、季節の移り変わりが目に見えてわかる風景にも感動しました。
また、人とのつながりがとても大事だということも身に染みました。さまざまなつながりがなかったら、私は今ここにいなかったと思います。

大変だったことは、その頃住んでいたログハウスに虫がたくさん出たことや、冬の厳しさですね。冬や雪に対しての心構えが甘い部分があり、毎年何かしら防寒対策を学ぶところがありました。年々少しずつですが、たくましくなっていると感じます。(笑)


Q:実際に川場村に暮らしてみた感想はどうですか?

A:最高ですね。村内にある「名水」からはいつでもおいしい湧水が飲めますし、いつでも温泉に入れるし、食べ物はおいしい! 都会と違って人との距離が近いのも、私にとっては良かったと思います。知らない人ばかりで、初めは話しかけるのもかなり緊張しましたが、住民の方々はどなたも親切で、協力隊として移住してきたことを話すと「頑張ってね」と声をかけていただいたり、農家さんから食べきれないくらいの野菜をいただいたりして、そういう温かい人間関係が新鮮で、ありがたかったです。

人とすれ違ったときは挨拶をするということも、こちらでは当たり前でカルチャーショックを受けました。大事なコミュニケーションですよね。


Q:現在の活動(事業)内容を教えてください。


A:任期中に読んだ本で「半農半X」という言葉を知りました。土に触れながら、自分の好きなことで自分のペースで生活するなんて、今まで知らなかった衝撃のライフスタイルでした。そこから私は今「半農半デザイン」の暮らし方を目指しています。
半農の部分では、今年頭に、冨士山集落活性化協議会でお世話になった黒田さんたちとともに、一般社団法人「WASAWASA」を立ち上げました。名前の由来は、里山に欠かせない水(Water)、土(Soil)、風(Wind)、太陽(Sun)の頭文字に、創造力(Art)のAをそれぞれつけて名付けました。自然の資源に創造力をプラスしていこうという意味で、それをコンセプトに活動しています。私は販促物のデザインや野良仕事で動いたり、田んぼの除草をしたりといろいろ担当しています。
現在は棚田で米作りをしながら棚田オーナーを募ったり、紅花を育てて染物のワークショップなどをしています。紅花は染料にするだけではなく、食べてもおいしいですよ。私たちの活動を知っていただくために「WASAWASA通信」という冊子も発刊しました。コロナが収まったら、もっといろいろな活動をやっていきたいと思い、準備中です。

「半デザイン」の部分としては「丸山デザインラボ」というデザイン事務所を起業しました。移住してからの人とのつながりや協力隊の仲間から、ロゴや名刺などの依頼をいただいていますが、まだデザインだけで自活するまでには至っていないので、道の駅川場田園プラザ内の工房でアルバイトもしています。今後は、狩猟で獲れた獣の皮を活かして革製品などを作り、工房で販売できないかと考えています。肉はともかく、皮や骨などはそのまま捨てることも多いので、その命を無駄にしないためにも、皮や骨、爪などを加工して川場村の特産品として商品化したいです。

Q:地域おこし協力隊を目指したいという人にメッセージをお願いします。

A:3年間という期間が保証されているうちに好きなことを好きなだけした方がいいと思います。隊員時代には、調子がいいときだけじゃなく、メンタル的にうまくいかないときもありましたが、ある日たまたま県内のラジオ番組を聞いていたときに、パーソナリティーの方が「向き不向きより前向き」という座右の銘についてお話しされていて、良い言葉だなと思って、今でも心にとどめています。
何が向いているか、何ができるかも大切ですが、前向きに進めば道は開けます。気負わずに楽しく活動して、その地域を好きになれば、それで十分ではないでしょうか。

ただ、計画は大事です! 3年後のビジョンが既にあるなら、どうやって生活していくか目標を立てながら進んでいくことをおすすめします。

(取材日:2021/8/24)